ラブ・ノーツ in ハワイ / Island Magic
〜魔法の島の愛の音〜
Creative Notes by Hiro
ハワイ諸島の興味深いところは、島々それぞれに独自の地形・気候によって特徴ある自然を持ち、各島が異なる文化/社会を形成しているところにある。
ワイキキで買い物をしたり高級リゾートで疲れを癒したりする事も楽しいけれども、たとえばビッグアイランドまで足をのばして自然の厳しさに触れたり、ちょっと勇気をだして地元の文化に自分の身を投じてみると、そこには私達=いわゆるモダン・ソサエティがいつしか忘れてしまった自然観やリズムが、今も生きいきと存在していることを体験できる。
例えば、全ての生命を否定するような真っ赤な炎が流れ込む海から、まるで月の表面のような誰もいない溶岩の黒い道を半日も歩けば、あまりにも殺伐とした自然の「厳しさ」に思わず心細くなるだろう。しかしめげずに更に更に進んでいけば、その圧倒的な厳しさの向こうに、いつしか深い森が現れ、満々と湛える豊かな真水に映された様々な命が見えてくる。そこには一神教を生んだ「砂漠の民」と多神教を育んだ「森の民」といった相反するメンタリティーがいわば同時に存在し、人間は誰だってその“厳しさ”と“美しさ“のパラドクスの狭間で、何かを表現せずにはいられなくなるのだ。それがこの地で人達がHULAという、神へ捧げる究極の美をもった動きを生んだメカニズムなのかもしれないと僕は感じた。さらに、アロハの精神とはもともとAlo=向き合い、Ha=息を吹き合う、という意味があって、人と人が向き合って命の息吹を交換する。自分の命を相手に吹き込むという事。言い換えれば一番大事なものを惜しみなく相手に差し上げる精神だ。HULAは全身全霊をかけて踊る。それは神に対するアロハ=自分を全部出しきる行為なのだ。そして大切な事は、その神が、ここハワイにおいてはイコール自然の理(ことわり)を意味するということだ。
今回の作品のメイン・テーマとなっている井上真紀が自ら作った美しい歌、”ヘモレレ・オ・キラウエア”では、森に住む「神の鳥」が登場する。「神の鳥」といっても、一神教で神格化された屈強な「鷲」ではなく、真紀曰く“アパパネ”という名の黒っぽい小さな鳥なのだという。更にはこの鳥は自分を誇示するわけでもなく、深いキラウエアの森にただ静かに佇んでいる。つまり”アパパネ“の鳥は神の使者でありながら、しかし圧倒的な火の神「ペレ」の下においては、我々人間と同じく全くの無力な存在である。しかし、それでもなお、人間がその鳥を神と仰ぐのは、人間が忘れて久しい「我々はお互いに自然という名の神のエレメントである」ということと「生きる事の本当の意味」を伝える役割を授かった神の化身だからなのだ。
井上真紀が果たしてどんな心境にあってこの歌を書いたのかは知るところではないけれど、この”ヘモレレ・オ・キラウエア”を歌い、そして舞う彼女を観ているうちに、僕はいつしかこの映像作品を作る決心をしていた。人類、特に我々のように自称(!?)高度文明社会に生きる者たちは、近い将来必ず地球における人間の暴挙を悔改め、その先に人間の「新たなる役割」を自らみつけなければならない時が到来することを必ずどこか心の隅で感じている。何かの縁でこの作品を観た人がそれが日本人であれ、他国や他の人種であれ、井上真紀のHULAやラブ・ノーツの紡ぐサウンド・ストーリーを通してそんな予兆に自ら気づいてくれることになれば、それに勝る光栄は無いと思うのだ。
今回の撮影の最大の成果は、雄大なビッグ・アイランドの自然と、オアフ島の美しい風景をコラージュしながら、まさにその自然のエレメントとしての舞を極めた井上真紀が思う存分HULAと歌を披露しただけでなく、孤高のウクレレ・マスター、ハーブ・オオタ氏とのセッションもまた、ジャズという研ぎ澄まされた技術を要する音楽形式の中で、純粋に自然を奏でるウクレレの音色をフィーチャーするという、まさに21世紀の今でしか実現することの無いであろう、ラブ・ノーツならではの「HAWAII」のエッセンスを、結成20周年の記念すべき作品に収める事ができたことだ。
さて、最後にこの場を借りて作品制作に尽力頂いた方々に改めて感謝の意を表します。
今回カメラを回していただいた中野氏を筆頭に、現地に同行いただいたコスモ・スペースの製作スタッフの皆さん、プロデューサーの市川、田上両氏、また前任の荒井D、そしてドリスペの編集スタッフ。現地で働いてくれたジェシー&スタッフの皆さん、浦田さん、V.キャラガー氏、メイクのシノさん。Mix のウネハラ氏。ありがとうございました。そして何より制作全般にご協力とご支援をいただきました、エグゼクティブ・プロデューサー青木秀臣氏、同じく、2009年の元旦のTV特番放映に際し多大なるご支援をいただきました稲垣利照氏に深く感謝の意を表します。
製作総指揮 Hiro川島
また、当作品の完成を待たずして惜しくもこの世を去ったダン・ハイルマン氏に深く哀悼の意を表します。
製作スタッフ一同