PP&Mのポールが新境地
日本でジャズの夢実らす
「フォークの神様」ポールがジャズの新曲を作っていた。
その曲にぴったりくると選んだのは、日本人バンド。
出逢いは東京のイタリアンレストランだった。
ジャズバンド「ラブ・ノーツ」のトランペッター、ヒロ川島と、ボーカリストの井上真紀は、レストランのテーブルに着くやいなや、
「これ聞いてみてくれ」
と、ヘッドホンを渡された。 聞こえてきたのは、アコースティックギターが奏でるジャズ。
なんとも心地いい。
「ん?」。何か叫んでいる。
「Here comes Hiro!」
「Here comes Maki!」
ここでトランペットが、ここでボーカルが入る、と指示している。
目の前には落ち着かない様子のポール。
きっかけは四年前
「どうだ」
と聞いてくる。
「すごくいいよ、ポール」
と答えると、
「そうか、じゃあ一緒にやろう」
こうしてラブ・ノーツは今年9月、セッションを演るためロサンゼルスヘ飛び立った。
実はこの「ポール」とは、あの「ピーター・ポール&マリー(PP&M)」のポール・ストゥーキー(63)のこと。1962年に「レモン・トゥリー」でデビュー、「パフ」や「悲惨な戦争」など数々のヒットを飛ばし、60年代のモダン・フォークシーンをリードしてきたPP&Mのメンバーの1人だ。ただ、「PP&Mのポール」としてフォーク界のトップに君臨するだけでは飽き足らなかったようだ。
彼にとってフォークは一つの音楽に過ぎない。すばらしいと思うものはジャンルを問わず演りたい、できれば子どものころから好きだったジャズを― そう思い続けてきたからだ。
そんなポールの思いが込められたオリジナルのジャズナンバー、「Every Flower」と「But A Moment」が、ラブ・ノーツとのセッションで見事開花した。この2曲は11月23日に発売(日本のみ)されたラブ・ノーツのDVDソフト『CHRISTMAS/Love Notes』に収められている。
共演のきっかけは、4年前。
「なんて息の合った演奏なんだろう。ひょっとしたら、彼らがやってくれるかもしれない」
コンサートで来日していたポールは、東京・白金のイタリアンレストランで、ラブ・ノーツの演奏を聴きながら、そう想いめぐらせていた。
そのころ、ポールは自分の曲をどのようにすればジャズ風にできるのだろうかと思案しており、一緒に演ってくれる相手を探していた。そんな時だった。偶然にも彼らの演奏を聴いたのは。当然、ラブ・ノーツは、ポールのそうした秘め事など知る由もない。しかも4年後のことなんて。
来日時CD録音し持参
今年3月、PP&Mの来日が決まった際、ポールは、その間したためてきたオリジナルのジャズナンバーを彼らに聴いてもらおうと、わざわざCDに録音して持参してきたのだった。
70年にPP&Mが一度解散した後、ポール・ストゥーキーとしてブルースやジャズ的なサウンドにも挑戦してきた。しかし当時はまだ、PP&Mサウンドに慣れ親しんできたファンには、ポールの新境地を受け入れるだけの時間も音楽的ゆとりも備わっていなかったのだろう、世間の評判は決して芳しいものとは言えなかった。
でも、そんなことはポールにしてみれば何ら関係ない。PP&M時代から常々言ってきたのは、
「音楽は金じゃない」
「従来のスタイルにとらわれず、新しい生命観を歌いあげたい」
だった。ジャズヘの想いは失せない。
DVD発売前夜の22日、ポールはメールでメッセージを寄せてくれた。
「これから更に彼らと音楽のコラボレーションができることを楽しみにしている」
[編集部 堀田浩一]
[ 『AERA』 2000年12月4日号 掲載 ]